誰も露骨に悪意を持っている登場人物はいない。
皆が多少のエゴはあろうとも、ごく当然な道徳を基に当然の主張をしただけだった。
ただ、ちょっとした善意が予想もしない方向へ物語を転がし始め、予想以上の大きな渦となって多くの人を巻き込み、傷つけていく。
その渦は小さな嘘を生み、人々に事実を隠させてしまう。
皆が身動きを取れなくなってどうしようもなくなるとき、人々に行動の規範を与えるのはやはり宗教ということになるのか。
一言一言のせりふの意味が大きく、すぐに物語の方向が大きく変わってしまう緊張感の高い映画となっている。
どの登場人物の目線で見るかによってまったく趣向の違うドラマになっていて作りが非常に立体的だ。
アカデミー賞外国語映画賞受賞のイラン映画。